内部通報の失敗事例から学ぶ、制度の改善ポイント
内部通報制度は、企業の不正行為を早期に発見し、是正するための重要な仕組みです。しかし、その運用を誤ると、かえって問題を悪化させてしまうこともあります。内部通報制度の失敗事例から学び、制度を改善していくことが求められています。
失敗事例としては、通報者の秘密が守られず不利益を被ったケースや、調査が不十分で不正の全容解明に至らなかったケース、経営陣が不正に関与していたケースなどが挙げられます。こうした事態を防ぐためには、通報者保護の徹底、調査体制の強化、経営陣からの独立性確保など、様々な改善策が必要です。
加えて、再発防止策の実効性を高めるPDCAサイクルの確立や、社内教育・意識改革など、組織文化のレベルでの取り組みも欠かせません。トップのコミットメントを明確に示し、外部専門家の知見も活用しながら、継続的に制度を改善していくことが肝要でしょう。内部通報制度の重要性を全社的に浸透させ、実効性のある運用を目指していきたいものです。
この記事の目次[非表示]
- 1.内部通報制度とは
- 1.1.内部通報の定義と意義
- 1.2.内部通報制度の法的根拠
- 1.3.内部通報制度の運用プロセス
- 1.4.内部通報制度のメリット
- 2.内部通報制度の失敗事例
- 2.1.通報者の秘密が守られなかった事例
- 2.2.調査が不十分だった事例
- 2.3.経営陣の関与があった事例
- 2.4.再発防止策が機能しなかった事例
- 3.内部通報制度の課題と改善ポイント
- 3.1.通報者の保護が不十分
- 3.2.調査体制の不備
- 3.3.経営陣の関与と独立性の欠如
- 3.4.再発防止策の形骸化
- 4.効果的な内部通報制度の運用に向けて
- 4.1.トップのコミットメントと組織文化の醸成
- 4.2.外部専門家の活用
- 4.3.内部通報制度の継続的な改善
- 4.4.内部通報制度の社内周知と啓発活動
- 5.まとめ
内部通報制度とは
内部通報制度について、その定義や意義、法的根拠、運用プロセス、メリットを順に見ていきましょう。
内部通報制度を正しく理解し、適切に運用することが、企業にとって重要な課題となっています。
内部通報の定義と意義
内部通報とは、組織内部の者が、その組織内で生じた不正行為や法令違反行為を、組織内外の通報窓口に通報することを指します。この制度は、企業の自浄作用を高め、不祥事を未然に防ぐとともに、早期発見・是正を可能にするものです。
また、内部通報制度は、企業の健全な発展と社会的責任の遂行に寄与するものでもあります。不正行為を看過せず、適切に対処することで、企業の信頼性を高め、ステークホルダーとの良好な関係を構築することができるのです。
内部通報制度の法的根拠
日本では、2006年に公益通報者保護法が施行され、内部通報制度の法的基盤が整備されました。この法律は、公益通報者を保護し、国民の生命・身体・財産の保護や不正行為の是正を図ることを目的としています。
また、2022年6月には、公益通報者保護法の改正法が成立し、事業者に対して内部通報制度の整備が義務付けられることになりました。これにより、今後、内部通報制度の重要性がさらに高まることが予想されます。
内部通報制度の運用プロセス
内部通報制度を効果的に機能させるためには、適切な運用プロセスを確立する必要があります。具体的には、以下のようなプロセスが求められます。
- 通報窓口の設置と周知
- 通報の受付と調査
- 調査結果に基づく是正措置の実施
- 通報者のフォローアップと保護
- 制度の評価と改善
このプロセスを適切に運用するためには、経営層のリーダーシップと、関連部門の緊密な連携が不可欠です。また、通報者の秘密を厳守し、不利益取扱いを防止するための仕組みづくりも重要となります。
内部通報制度のメリット
内部通報制度を導入し、適切に運用することで、企業はさまざまなメリットを享受することができます。主なメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 不正行為の早期発見と是正による損害の最小化
- 企業の信頼性向上とレピュテーションリスクの低減
- 従業員の士気向上とコンプライアンス意識の醸成
- 監督官庁からの評価向上と行政処分リスクの低減
これらのメリットを実現するためには、内部通報制度を単なる形式的な仕組みとするのではなく、企業文化の一部として根付かせていくことが肝要です。経営層が率先して制度の重要性を発信し、実効性のある運用を心がけることで、内部通報制度は企業の持続的成長に大きく貢献するでしょう。
内部通報制度の失敗事例
内部通報制度は、企業の不正行為を早期に発見し、是正するための重要な仕組みです。しかし、制度の運用を誤ると、かえって問題を悪化させてしまうこともあります。ここでは、内部通報制度の失敗事例をいくつか見ていきましょう。
通報者の秘密が守られなかった事例
内部通報制度を運用する上で、最も重要なことは通報者の秘密を守ることです。もし、通報者の情報が漏えいしてしまえば、通報者は報復を恐れて二度と通報しなくなってしまうでしょう。
ある企業では、内部通報があった際に、通報内容を調査するために通報者の上司に事情聴取を行いました。その際、誰が通報したのかを上司に伝えてしまったのです。
結果として、通報者はその後、上司から嫌がらせを受けるようになり、最終的には退職に追い込まれてしまいました。通報者の秘密を守れなかったために、貴重な人財を失ってしまったのです。
調査が不十分だった事例
内部通報があった際には、速やかに事実関係を調査し、適切な措置を取ることが求められます。調査が不十分であれば、問題の全容が明らかにならず、再発防止も図れません。
ある企業では、経理部門の社員から不正経理の疑いについて内部通報がありました。しかし、調査は表面的なものに留まり、証拠資料の収集や関係者へのヒアリングが十分に行われませんでした。
その結果、不正の全容が明らかにならないまま、一部の関与者への処分だけで幕引きとなってしまったのです。後に、不正はさらに広がっていたことが発覚し、企業の信用は大きく失墜してしまいました。
経営陣の関与があった事例
内部通報制度が形骸化する大きな要因の一つが、経営陣の関与です。経営陣自身が不正に関与していれば、たとえ内部通報があっても、それを握りつぶそうとするでしょう。
ある企業では、子会社の社長による横領行為について内部通報がありました。ところが、その情報は親会社の経営陣にも共有されており、事件は幕引きされてしまったのです。
後に事件が明るみに出た際には、親会社の経営陣も大きな批判を浴びることとなりました。経営陣が率先して不正を正さなければ、内部通報制度の意味はないのです。
再発防止策が機能しなかった事例
内部通報によって問題が明らかになった後は、再発防止策を講じ、実効性のあるものにしていかなければなりません。形式的な対策だけでは、また同じ問題が起きてしまうでしょう。
ある企業では、品質管理部門からの内部通報で、工場における品質検査の不正が発覚しました。当初は再発防止策を講じたものの、現場の意識改革が不十分であったために、その後も同様の問題が繰り返し起きてしまったのです。
抜本的な再発防止のためには、単に規定を整備するだけでなく、社員教育や風土改革も必要不可欠です。 以上のように、内部通報制度の失敗事例からは、
- 通報者の秘密を守ること
- 徹底した事実調査を行うこと
- 経営陣自らがコンプライアンス意識を持つこと
- 実効性のある再発防止策を講じること
の重要性が浮き彫りになります。 これらの教訓を生かし、内部通報制度を実効性のある仕組みとして運用していくことが、企業にとって重要な課題であると言えるでしょう。
内部通報制度の課題と改善ポイント
内部通報制度は、企業内の不正行為や法令違反を早期に発見・是正するために重要な役割を果たします。しかし、現状ではいくつかの課題があり、その改善が求められています。
通報者の保護が不十分
内部通報制度の最大の課題は、通報者が報復や不利益を恐れ、通報を躊躇することです。匿名性が確保されないケースや、通報後の処遇に関するルールが曖昧であることが、通報者の不安を助長しています。ある企業では、通報者が配置転換や降格といった不利益を被った事例も報告されています。
改善ポイントとしては、通報者の秘匿性を厳守し、報復措置を禁止する明確な規定を設けることが必要です。また、通報者の個人情報を本人の同意なしに開示しない厳格なルールを整備し、安心して通報できる環境を整えることが重要です。
調査体制の不備
内部通報制度のもう一つの課題は、調査体制の不備です。通報内容を適切に調査し、事実関係を解明することが求められますが、現状では十分な体制が整っていないケースが多いのです。
調査体制が不十分である原因としては、専門知識や経験を有する人材の不足が指摘されています。不正行為や法令違反の調査には、高度な専門性が要求されますが、社内に適任者がいないことも珍しくありません。
また、調査に必要な予算や権限が付与されていないことも、調査の障害となっています。 ある企業では、内部通報を受けて調査を行ったものの、証拠の収集や関係者へのヒアリングが不十分であったため、不正の全容解明に至らなかったという事例があります。
調査の公平性・中立性を確保するため、専門的な知識を持つ外部の専門家を起用し、適切な権限と予算を付与した調査体制の整備が求められます。調査手順を明確化し、徹底した調査を行うことで、信頼性を高めることができます。
経営陣の関与と独立性の欠如
内部通報制度の運用において、経営陣の関与と独立性の欠如も大きな問題となっています。経営陣自身が不正に関与している場合、公正な調査が期待できません。 経営陣が内部通報制度に干渉する理由としては、自己保身や責任回避が挙げられます。不正が発覚すれば、経営陣の責任が問われかねないため、隠蔽や口止めが行われるリスクがあるのです。
また、経営陣と近い関係にある部署や担当者が調査を担当することで、中立性が損なわれる恐れもあります。 ある企業では、内部通報によって経営トップの不正が発覚したものの、調査担当者が経営トップと密接な関係にあったため、十分な調査が行われなかったという事例が報告されています。
内部通報制度の独立性を確保するためには、外部の専門家を起用するなど、経営陣から独立した運用体制の構築が求められます。そのためには、内部通報の受付窓口や調査主体を経営陣から独立させ、組織的に分離することが有効です。社外の第三者機関に内部通報制度の運用を委託するのも一案です。経営陣の影響を排除し、客観的な立場からの対応を徹底することが肝要となります。
再発防止策の形骸化
内部通報によって不正や法令違反が明らかになった場合、再発防止策を講じることが重要です。しかし、形式的な対応にとどまり、実効性のある再発防止策が取られないケースも少なくありません。
再発防止策が形骸化する原因としては、コストや手間を惜しむ姿勢が挙げられます。抜本的な対策を講じるには、相応の投資や労力が必要ですが、短期的な利益を優先するあまり、十分な対策が取られないことがあるのです。
また、再発防止策の実施状況を検証する仕組みが整備されていないことも、形骸化を招く要因となっています。 ある企業では、内部通報を契機として不正経理が発覚し、再発防止策として経理処理のルールを改定したものの、その後も同様の不正が繰り返されたという事例があります。
再発防止策の実効性を確保するためには、PDCAサイクルを回すなど、継続的な改善努力が不可欠です。内部通報への対応で終わりではなく、調査結果を踏まえ、類似事案の再発を防ぐための具体策を立案・実行に移すことが求められます。再発防止策が形骸化しないよう、定期的なモニタリングを行い、必要に応じて見直しを図るPDCAサイクルを回していく必要があります。ルールの整備や業務プロセスの改善はもちろん、社内教育の充実や意識改革なども継続的に進めるべきでしょう。
効果的な内部通報制度の運用に向けて
内部通報制度は、企業の不正行為を早期に発見し、是正するための重要な仕組みです。しかし、制度を導入するだけでは十分ではありません。効果的に運用するためには、いくつかの重要なポイントに留意する必要があります。
トップのコミットメントと組織文化の醸成
内部通報制度を実効性のあるものにするためには、経営トップのコミットメントが不可欠です。加えて、組織全体で内部通報を奨励し、通報者を保護する文化を醸成することが重要となります。
経営トップは、内部通報制度の重要性を社内に明確に示し、通報者の保護を最優先に考える姿勢を示さなければなりません。また、通報を行った従業員に対する報復行為を許さないことを明言し、実際に報復行為が発生した場合には厳正に対処する必要があります。
さらに、日頃からコンプライアンスの重要性を説き、倫理的な行動を奨励する組織文化を築いていくことが求められます。従業員一人ひとりが、不正を見過ごさない意識を持ち、内部通報が正しい行為であると認識できる環境を整備することが肝要です。
外部専門家の活用
内部通報制度の設計や運用において、外部の専門家を活用することも有効な方策の一つです。特に、内部通報制度の構築や改善に関するノウハウが社内に不足している場合には、その重要性が増します。 弁護士やコンサルタントなどの専門家は、内部通報制度に関する豊富な知見を有しています。制度設計の段階から関与してもらうことで、法令遵守や実効性の観点から適切な制度を構築することができます。
また、通報内容の調査や対応についても、外部専門家の助言を仰ぐことが有益です。客観的な立場から公正な調査を行い、適切な対応方針を示してもらうことで、制度への信頼性を高めることにつながります。
内部通報制度の継続的な改善
内部通報制度は、一度構築したら終わりではありません。環境の変化に合わせて、継続的に制度を見直し、改善していく必要があります。 定期的に制度の運用状況を検証し、課題があれば速やかに改善策を講じなければなりません。通報件数が少ない場合には、制度の周知が不十分である可能性があります。
逆に、通報件数が多すぎる場合には、通報内容の精査や調査体制の強化が求められます。 また、通報者へのフィードバックも重要な改善ポイントです。通報者が通報後の状況を把握できるようにし、通報が適切に処理されたことを実感できるようにすることで、制度への信頼性が高まります。
内部通報制度の社内周知と啓発活動
いかに優れた内部通報制度を構築しても、従業員に周知されていなければ機能しません。制度の存在を従業員に広く知らしめ、利用を促進するための活動が不可欠です。 制度の概要や通報方法、通報者の保護などについて、社内研修やイントラネット、ポスターなどを通じて繰り返し説明することが重要です。特に、新入社員研修では必ず内部通報制度について触れ、早い段階から制度の存在を認識してもらうことが効果的です。
加えて、コンプライアンス意識の向上を図る啓発活動も欠かせません。経営トップによるメッセージ発信や、具体的な事例を用いた討議型の研修などを通じて、従業員一人ひとりがコンプライアンスの重要性を理解し、実践できるようにサポートしていく必要があります。
内部通報制度は、企業不祥事を防止し、健全な組織運営を実現するための重要なインフラです。制度の形骸化を防ぎ、実効性を高めるためには、トップのコミットメント、外部専門家の活用、継続的な改善、社内周知と啓発活動など、多角的な取り組みが求められます。失敗事例を他山の石として、自社の内部通報制度の改善につなげていくことが肝要です。
まとめ
内部通報制度は、企業の不正行為を早期に発見し、是正するための重要な仕組みです。しかし、失敗事例から学ぶべき点は多岐にわたります。通報者の秘密が守られなかったケースや、調査が不十分だったケース、経営陣が不正に関与していたケースなど、運用を誤るとかえって問題を悪化させてしまう危険性があるのです。
こうした事態を防ぐためには、通報者保護の徹底、調査体制の強化と専門性の向上、経営陣からの独立性の確保、再発防止策のPDCAサイクル、社内教育と意識改革など、様々な改善策が求められます。トップのコミットメントを明確に示し、外部専門家の知見も活用しながら、継続的に制度を改善していく必要があります。
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