暴排トピックス

当社副社長・芳賀によるコラムです。

北朝鮮リスクを巡る動向(2024.08)

核兵器開発プログラム支援のためのサイバースパイ活動展開

目次[非表示]

  1. 1.核兵器開発プログラム支援のためのサイバースパイ活動展開
  2. 2.北朝鮮から韓国へ向けての警告
  3. 3.韓国ドラマが保存されたUSBメモリーを拾った中学生を銃殺
  4. 4.金総書記の「平和統一」政策の放棄と韓国を「同族とはみなさない」という新方針の徹底要請
  5. 5.国民に強制労働を課す制度
  6. 6.その他、北朝鮮を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
    1. 6.1.金正恩氏の服用薬探し
    2. 6.2.ミサイル開発
    3. 6.3.次期指導者の教育
    4. 6.4.北朝鮮のGDP成長
    5. 6.5.豪雨災害
  7. 7.外交関係を巡る最近の報道

北朝鮮のハッカー集団が同国の核兵器開発プログラムを支援するため、世界的なサイバースパイ活動を展開し、軍事機密を盗み出そうとしていると、米(米連邦捜査局(RBI))・英・韓国が共同勧告を発表しています。

報道によれば、「アナドリエル」もしくは「APT37」と呼ばれるハッカー集団が、戦車や潜水艦、海軍艦艇、戦闘機、ミサイルやレーダーシステムの製造業者を含む多岐にわたる防衛・エンジニアリング企業のコンピューターシステムを標的としたサイバー攻撃を行い、特にウラン濃縮や放射性廃棄物、原発や原子力研究機関、造船、ロボット製造などの分野で機密情報が被害にあったといいます。

また、米英韓の企業だけでなく、「日本やインドを含む世界中のさまざまな産業分野にとり継続的な脅威」という認識を示しています。

これらのハッカー集団は、北朝鮮の情報・工作機関である偵察総局の一部と考えられています(同局は2015年に米国から制裁を受けています)。

スパイ活動資金を得るため、北朝鮮は米国の医療機関に対するランサムウェア(身代金要求型ウイルス)で資金を調達し、サイバー攻撃に必要な機器などをそろえているといい、米連邦検察は、北朝鮮のハッカーが起訴されたと発表しています。

身代金は暗号資産で受け取り、中国で資金洗浄をしていたとしています。

北朝鮮から韓国へ向けての警告

北朝鮮は、韓国が北朝鮮の体制を非難するビラを散布したことを巡り「壊滅的な結果」に直面するだろうと警告しています。国営の朝鮮中央通信(KVNA)が金正恩朝鮮労働党総書記の妹、金与正党第1副部長の発言として伝えています。

報道によれば、北朝鮮はこれまでに数千個のごみ風船を韓国に向けて飛ばしましがが、金氏は「人間のくず」による「卑劣で汚い」行動が続けば、別の対応を取るかもしれないと述べています。

これに対し、韓国のシン・ウォンシク国防相は、北朝鮮の韓国に対する武力挑発に対し、徹底的に反撃するとの方針を示しています。また、北朝鮮が今後、砲撃する可能性もあるとして、動向を注視しているとも述べています。

申氏は、保守の尹錫悦政権が掲げる「力による平和」を象徴する人物で、2023年10月の就任後、北朝鮮が武力挑発を行えば「即時に、強力に、最後まで」反撃するよう全軍に命じています。

また、金正恩政権にとっては「北朝鮮より自由で幸福な韓国の実態が、(宣伝放送を通じて)住民の耳に入るのが一番怖い」とし、歴代政権が、北朝鮮への刺激が強すぎることなどから、宣伝放送の実施には抑制的だったところ、申氏は「北朝鮮を抑止するために有効な手段なのに(歴代政権は)あまりにも早く放棄してきた」と語り、実施を続ける構えを強調しています。

北朝鮮は、韓国の脱北者らが金正恩政権を批判するビラを風船で飛ばしていることに神経をとがらせており、申氏は北朝鮮が今後、風船を直接撃墜するか、「風船を飛ばす拠点を銃撃や砲撃する可能性もある」と語っっています。

なお、2024年7月24日には、北朝鮮が飛ばしたごみ風船が韓国の大統領府の敷地内に落下、同5月下旬以降、北朝鮮が風船を飛ばすのは10回目となります。大統領府にまで飛来したことで、対応を疑問視する声が上がっていますが、大統領府関係者は「飛んでいる風船をリアルタイムで監視し、落下場所も確実に把握していた」と強調、調査の結果、積載物に有害な化学物質などは含まれていなかったといいます。

韓国外交筋は「化学兵器や生物兵器を入れて飛ばすことも想定し、ルートや距離を探っている可能性がある」と警戒感を強めているといいます。

これまでの落下物から風船を割るタイマーらしきものが見つかっています。韓国軍はこれまで、風船を撃ち落とす対応は取っていませんが、かえって中身をまき散らしたり、地上にいる人らに被害が出たりする恐れがあるためだとされます。

なお、ごみ風船によって、空港で飛行機の離発着に影響が出たほか、住宅の屋根で火災が発生したといいます。

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韓国軍合同参謀本部は、北朝鮮軍が木の葉に偽装した新型の地雷を韓国との軍事境界線付近に埋設していると発表、梅雨の時期で水かさが増しており、境界線上を流れる臨津江を通じ、韓国側に流れてくる恐れがあるとして警戒を強めているといいます。同本部によると、北朝鮮軍は軍事境界線付近の非武装地帯(DMZ)に2024年4月ごろから数万発以上の地雷を埋設、北朝鮮がダムにたまった水を意図的に放流し、葉型の地雷を韓国側の河川敷などに流れ込ませる恐れがあるとみており、「事前の対策に万全を期している」としています。

韓国ドラマが保存されたUSBメモリーを拾った中学生を銃殺

北朝鮮側では地雷埋設作業中に10回前後の事故が起き、多数の死傷者が出たとみられるといいます。

北朝鮮は、風船で飛ばされてきた韓国ドラマが保存されたUSBメモリーを拾った中学生たちを、公開の場で銃殺したといいます。また、「韓国流」の言葉遣いも処罰対象になっているといいます。

金正恩政権が、人民が韓国の豊かさや文化に触れることをいかに恐れ、激烈な反応を示しているかが分かります。

ただ、どれだけ恐怖支配を強めても、情報流入と拡散を完全に止めることは現代ではもはや困難となっています。

2023年11月に韓国に亡命した北朝鮮の在キューバ大使館参事官が、韓国紙、朝鮮日報のインタビューに「北朝鮮の住民なら誰もが韓国で暮らしたいと思うようになる」と語っています。

駐イタリア大使代理、駐クウェート大使代など北朝鮮の外交官の亡命が目立つのも、外の世界を知れば知るほど北朝鮮に未来はないと感じるからだと考えられます。

また2023年10月に木造船で脱北した20代の女性は2024年6月の記者会見で「北朝鮮の若者たちは『韓国式』が大好きで、すごい速度で韓国文化が広まっている」、「若者らは韓国スタイルがとても好きで、韓国文化が広がる速度は『深刻』といえるほど速い」と話し、女性は若者らの間で統制強化への「反感が生じている」と説明しています。

金総書記が南北統一という半世紀にわたり掲げてきた対韓政策を転換したのも、人民の間で存在感が増す韓国をできるだけ遠ざけようとしたものと見られています。

祖父の金日成、父の金正日という2代の最高指導者が掲げた対韓政策を否定し、金正恩政権の無謬性を傷つけてまで政策転換を決めた背景には、北朝鮮内で韓国への憧れが広まるのを止められない焦りがあると考えられます。

このように脱北者は、北朝鮮住民の韓国への見方について「(韓国との)統一を渇望する人たちが本当に多い。それほど北朝鮮での暮らしがつらいから」と語っていますが、一方で、脱北者の続出による体制の崩壊に至らない点も気になります。

この点、脱北者は、大半の北朝鮮住民にとって「韓国に来る方法がないから」と断言しています。

脱北ルートの多くが塞がれ、脱北が見つかれば、即銃殺されるようになったといいます。一方の韓国社会の統一への関心も低迷し、最近の世論調査で統一が必要だとする20代は3割を下回り、韓国社会の北朝鮮問題を巡る無理解が、金体制を助長させるまた一つの要因となっているともいえます。なお、北朝鮮エリート層の韓国亡命は2023年1年間で10人前後に上り、2017年以降では最多を記録、北朝鮮が国境封鎖を強化したのに伴い、韓国に入国する脱北者は2000年代に比べて1割未満に減少しているといい、そのような中、金正恩政権に対する特権階級の離反が際立っている形です。 そうした背景事情がよく分かるものとして、在キューバ大使館の元参事官は韓国紙、朝鮮日報のインタビューで、劣悪な待遇で勤務する北朝鮮外交官の生活実態や、金正恩朝鮮労働党総書記が宴席で党幹部を叱責したエピソードなどを告白していたものがあります。2024年7月26日付産経新聞によれば、北朝鮮問題の専門家は外交官の脱北が相次ぐ背景として、在外公館での外貨稼ぎが困難になっている実情を挙げています。報道によれば、、当時の月給は副局長として最高の3千ウォン、米ドルに換算すればわずか「0.3ドル(約45円)」で、在外公館勤務時には給与がドルで支払われたものの、それでも月給500ドル(約7万6千円)にとどまったといい。違法な商売で生計を立てざるを得ないキューバ大使館の職員らは、税関検査を免れる外交官特権を悪用してキューバ産葉巻を中国に送り、1度に1万5千~2万ドル(約228万~約305万円)を稼いだといいます。外交活動のために身なりを整えつつ、貿易業務従事者などと異なり収入は少ない北朝鮮外交官は、本国では「ネクタイを付けたコッチェビ(浮浪児)とも呼ばれていた」と述べています。さらに、韓国批判を展開して存在感を示す金正恩氏の妹、金与正党副部長についても「(発表談話で)名前を貸しているだけ」だと話し、影響力の大きさを否定しています。「自分の名前が汚物風船などを正当化するのに使われ(与正氏も)気の毒だ。(与正氏の)力がどうであろうと(党内の地位が)2番目、3番目などというのは全部うそだ。『最高尊厳』(の正恩氏)以外はすべて奴隷に過ぎない」と述べています。

金総書記の「平和統一」政策の放棄と韓国を「同族とはみなさない」という新方針の徹底要請

金総書記が打ち出した「平和統一」政策の放棄と韓国を「同族とはみなさない」という新方針について、北朝鮮は在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の内部でも徹底するよう求めているといいます。

報道によれば、こうした指示の概略を示す文書は、関連団体や学校の出版物や各種イベントで韓国を「同族」とみなす表現や絵などを使わないよう具体的に指示する内容だといいます。

日本に住む在日韓国・朝鮮人の中には、韓国籍もいれば朝鮮籍もいて、親戚や家族の間で国籍が違う場合も少なくなく、南北の首脳が「統一を目指す」という文書にサインしたことは、そうした環境にある在日社会に一定の希望や夢を与えたとされます。

ところが金総書記は2023年12月に開催した朝鮮労働党の中央委員会拡大総会で、韓国が「同族、同質の関係」ではなく「敵対的な国家関係、交戦国の関係」になったと表明、統一の相手とみなしてはならないと強調、これには朝鮮総連と近い在日朝鮮人社会からも「言葉も文化も同じなのに」などと反発や疑問の声が上がったといいます。

国民に強制労働を課す制度

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、北朝鮮が国民に対して制度的に強制労働を課していると非難する報告書を発表しています。

国際法に違反する人権侵害を引き起こし、場合によっては「奴隷化」という人道に対する罪にあたる可能性があるとして、北朝鮮に強制労働の廃止を勧告し、国際社会にも行動を求めています。

報告書は2015~2023年にかけて聞き取った脱北者183人の証言などに基づき、北朝鮮が生産活動や公共事業、外貨獲得のために学齢期から強制労働に動員する体制を作り、国民を管理している実態をまとめています。

収容所ではノルマを達成できなかった労働者が暴力を振るわれるなど非人道的な行為が横行していると指摘、子どもは学校などを通じて植林などにかり出され、徴兵者は日常的に建設業などに従事し、海外派遣者は稼ぎの大半を国にピンハネされているとしています。

北朝鮮では忠誠心などを踏まえて職を割り当て、労働者に職業選択の自由はないといい、強制労働はほぼ全ての国民の生活に及び、「政治体制と指導者への絶対的服従」に結びついていると指摘しています。

さらに報告書は、北朝鮮政府に対し、「あらゆる形態の強制労働」や「奴隷制やそれに類似した慣行」の廃止を要求、国際社会にも、人権侵害の責任者に対する責任追及や、北朝鮮の強制労働が絡む経済取引がないよう供給網の綿密な監視を勧告しています。

その他、北朝鮮を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

金正恩氏の服用薬探し

韓国の情報機関、国家情報院(国情院)は、北朝鮮が、金総書記が服用するための高血圧や糖尿病に効く新たな治療薬を探しているとの情報があったと国会の委員会で報告しています。

国情院は、金正恩氏の体重が140キロに達しているとみられ、超高度肥満で心臓疾患のリスクが非常に高い状態にあると分析、30代前半から高血圧と糖尿病の症状が見られ、「既に使用している薬ではない、他の薬を探す動向が捉えられた」といいます。

ミサイル開発

ミサイル開発を巡っては、北朝鮮は2024年に入り14回48発のミサイルを発射しており、戦略巡航ミサイルや極超音速ミサイルなど、短距離、中距離ミサイルの強化に集中していると指摘、2024年5月下旬に打ち上げに失敗した、軍事偵察衛星を載せたロケットについては、飛行機などのジェット燃料としても使われる「ケロシン」などを初めて使用したことなどから、「ロシアから支援を受けたエンジンである可能性が高い」と判断しています。

これに対し、北朝鮮側は建設や農業分野などの労働者をロシアへ派遣する準備をしているとの分析も明らかにしています。また、北朝鮮が5月下旬から飛ばしているごみ風船については、10回で約3600個にも上ったと集計しています。

次期指導者の教育

韓国の情報機関は北朝鮮の金総書記のキム・ジュエ氏とされる娘について、次期指導者になるための訓練を受けているとの見方を示しています。

北朝鮮のGDP成長

韓国銀行(中央銀行)は、北朝鮮の2023年の国内総生産(GDP)が前年比3.1%増だったとする推計を発表しています。新型コロナウイルス対策の緩和に伴う経済活動の回復が影響したとみられ、4年ぶりのプラス成長といいます。

農林漁業が1.0%増えたほか、製造業は軽工業、重化学工業とも伸び5.9%増、建設業は住宅用の建物建設を中心に8.2%増加となっています。

2023年の輸出入総額は前年比74.6%増の27億7000万ドル(約4300億円)、1人当たり国民総所得(GNI)は韓国ウォン換算で158万9000ウォン(約17万6000円)で、韓国銀行は韓国の30分の1程度だとしています。

豪雨災害

北朝鮮の朝鮮中央通信は、北部で豪雨災害が相次ぎ発生、朝鮮労働党の中央委員会は、被害を受けた平安北道新義州市で緊急の政治局会議を開いています。

また、金総書記は被災地を訪れ、被災者を激励しています。

金総書記は会議で初期対応の遅れを問題視、「厳しく処罰する」として社会安全相ら関係幹部を交代させています。

自らボートに乗りこみ、浸水した市街地を見て回り、避難所のテントを訪れ、被災者の生活の状況をみて対応を検討したといいます。

被害状況としては、新義州市と義州郡で4100世帯あまりが浸水、農耕地や公共施設、道路、鉄道も被害を受けたといいます。

孤立地域の救助活動に空軍のヘリコプターを動員、一方、人命被害は明らかにしていませんが、韓国メディアは政府関係者の話として1000~1500人の人命被害が確認されたと伝えています。

外交関係を巡る最近の報道


韓国の尹錫悦大統領は、北朝鮮によるロシアとの兵器取引は世界の平和を脅かしており、「無謀な力」から自由を守る上でリベラルな民主主義国家における連帯が不可欠だと述べています。

尹氏は米軍幹部らを前に「北朝鮮はロシアとの違法な武器取引により、朝鮮半島だけでなく世界全体の平和を脅かしている」と述べたほか、金総書記とロシアのプーチン大統領による2024年6月の「包括的戦略パートナーシップ条約」署名で北朝鮮の軍事力増強への懸念が強まっていると指摘しています。

北朝鮮の朝鮮中央通信によると 金総書記は、ロシアのアレクセイ・クリボルチコ国防次官が率いる軍事代表団と平壌で面会し、露朝の軍事協力の重要性を確認したと報じられています。

6月の露朝首脳会談以降、露軍事関係者の訪朝が明らかになるのは初めてです。

露朝は首脳会談で、有事の相互軍事支援を規定した「包括的戦略パートナーシップ条約」を交わしています。

金総書記は露軍事代表団との面会で、首脳会談について「重大な意味」を改めて評価、その上で「両国の軍隊がより固く団結し、地域と世界の平和、国際的正義を守っていく上で重要な役割を果たさなければならない」と強調、ロシアのウクライナ侵略についても「強力な支持と強固な連帯」を改めて示しています。

北朝鮮の崔善姫外相は、平壌でベラルーシのルイジェンコフ外相と面会、、「共同の理想と目的に向かうベラルーシとの関係を全面的に拡大、強化する」と強調しています。

両国とも米国などの制裁で経済が疲弊しており、ロシアの「同盟国」同士で結びつきを強め外交上の孤立を打開する狙いがあります。ベラルーシはルカシェンコ大統領が1994年から30年にわたり政権を握っており、祖父の代から3代にわたり権力を独占する金政権と似ています。北朝鮮は2024年4月にもベラルーシの外務次官を平壌に招いています。

北朝鮮は、ウクライナを侵略するロシアへ弾薬供給を続けており、ベラルーシもロシアの同盟国で、ウクライナ侵略を支えています。北朝鮮としてはベラルーシとの関係を強化して、ロシアの同盟国の一角だと対外的に明示する狙いがあり、一方のベラルーシは米欧から制裁を科され、経済的に苦境に陥っている中、ロシアに追随して中国や北朝鮮に接近し孤立を打開する狙いがあります。

北朝鮮の朝鮮中央通信は、米大統領選の共和党候補にトランプ前大統領が指名されたことを初めて伝え、金総書記と親しい関係にあったと指摘しています。

北朝鮮がトランプ氏の再選と米朝交渉の再開に期待しているとの見方が出ています(が楽観的な見通しとは言えないように思います)。

トランプ氏は指名受諾演説で「私が戻れば、彼とうまくやる。彼も私の復帰を望んでいる」と述べ、金総書記との非核化を巡る再交渉に意欲を示しています。両氏は2018~2019年に首脳会談を行いましたが、非核化措置を巡って決裂。

その後、米朝関係は急速に悪化しました。論評記事は受諾演説に触れ、「(トランプ氏が)首脳間の個人的親交関係をもって、国家間の関係にも反映しようとしたのは事実だが、実質的な肯定的変化はなかった」と振り返っています。

また、米国の選挙を批判し、2024年11月の米大統領選の結果にかかわらず米朝間の将来的な対話に否定的見解を示し、米国の民主党と共和党間の政治状況は「内輪もめ」で複雑化しており、今後変わることはないと主張、「悪意ある企てのための対話、対立の延長としての対話は最初から必要ない」と断じています。

さらに、米韓が北朝鮮との戦闘を想定した軍事演習を展開していることなどに言及し、「対話や交渉という言葉を我々は信じることができるだろうか」と批判、北朝鮮は米国との対決に向けて「十分に準備できている」とし、「朝米対決の秒針が止まるかは、米国の行動次第だ」と強調しています。

一方、北朝鮮は米大統領選でトランプ前大統領が勝利した場合、米国との核協議を再開したい意向で、新たな交渉戦略を練っていると見られています。前述の脱北した元外交官が国際メディアとの初のインタビューで、北朝鮮はロシア、米国、日本を2024年以降の外交政策の最優先課題としていると述べています。

ロシアとの関係を強化する一方で、トランプ氏が再選された場合、核協議再開を望んでいるといいます。同氏は北朝鮮の外交官がそのシナリオに向けた戦略を練っており、兵器プログラムに対する制裁とテロ支援国家指定の解除や、経済援助を引き出すことを目指していると語っています。

北朝鮮は米国との対話の可能性を否定し、武力衝突を警告してきましたが、同氏の発言はそうした姿勢が一転する可能性を示唆しています。

なお、「金氏は国際関係や外交、あるいは戦略的判断の仕方についてあまり知らない」と述べている点も気になります。同氏は、北朝鮮はロシアと緊密な関係を築くことで、ミサイル技術や経済面で支援を受けたものの、より大きな恩恵は追加制裁を阻止し、既存の制裁を弱体化させることだとし、米国に対する北朝鮮の交渉力が強まると指摘、「ロシアは違法取引に手を染め、そのおかげで北朝鮮は制裁解除を米国に頼る必要がなくなった。ロシアは米国から重要な交渉材料を一つ奪ったということだ」と述べています。さらに、同氏によると、金総書記はまた、日本人拉致被害者問題での譲歩と引き換えに経済援助を得る目的で、日朝首脳会談を模索すると指摘しています。